2008年12月14日日曜日

ウッドウイルは敷居が高い

ウッドウイルは敷居が高いと最近言われる事があります。
今迄の経緯を考えてどうなのかを少し考えてみいたいと思います。



2000/4にウッドウイルをスタートさせました。
初めは数千円程のMDF材を使ったエンクロージャーキットの製作です。
来る日も来る日もMDF独特の埃っぽい木屑にまみれての作業が続きました。
実績も知名度も何も無い中からのスタートですから当然であり無理もありません。
それでも数千円のキットをオーダーメードで製作する様な無謀な業者は他に有りませんし、
その頃、脚光を浴びたMercuryspeakers社からのエンクロージャー製作指定もあり
何とか注文だけは切れずに続ける事が出来ました。



お客様からの仕様を聞いて図面を書き、内容に問題が有れば問い合わせて製作する、
それだけでもう赤字です。買った材料のカットを行うホームセンターなどは材料の売り上げが
主体で、カットからは利益を期待しないサービスです。
パネルソーと呼ばれる大型の機械に材料(合板を)載せて、機械の操作で行う物ですが、
切断誤差が0.5mm前後はどうしても発生してしまいます。



ウッドウイルでは材料1枚1枚を荒切りして基準面を作ってそこを基にして
全ての加工を行うという木工加工の基本に則って行います。
天板/底板/側板は同じ奥行きですから、その加工は定規を決して動かさずに
加工を行いますので絶対誤差は±0.2mm程は有るかも知れませんが、
相対誤差は生じません。加えてビスケット加工を行っていますので位置合わせ不要で
組立は正確無比に出来た筈です。
お客様は上記のカットサービスを体験されている方が多いので、比較してあまりにも
あっけなく組立上がり、修正も不要で驚いたとネット上で何件も述べています。



それは価格がいくら安くとも新参者は怖くて手を抜く事など出来ませんでした。
正確なカットで喜んだお客様は次回には組立迄のご注文をくれました。
その仕上がりに更に喜んだお客様は次回は塗装迄を任せていただけました。
その次には全て任せるから例えば室内楽用で予算幾らで作ってくれと。
その継続が現在のウッドウイルの姿です。お客様に育てられて今に至っている訳です。
後にお話を聞かせてくれたお客様が言うには、何処の馬の骨とも知れぬ奴に数万円以上の
注文など初めから怖くて出来ないとの弁でした。



この様なお客様の要望を聞きながら製作を続ける内に相当に高度な仕様の作品を
手がける事も多くなりました。納期が1~2年で価格が数百万円などと言う
ハイエンド機クラスも製作して来ています。
反面、個人工房ですから大作を2機種も抱えると直ぐに納期が半年や1年取られてしまい、
比較的簡易な作品でも相当の期間お待ちいただくジレンマに陥って来た事も事実です。
これは2年かけて問題解決の目処が付いてきましたので、来年度からあまり長納期で
ご迷惑をおかけする事は無くなって来るものと思います。



上記に詳しく述べたキットと拘りの完成作品の制作工程は何ら変わりは無く、
丁寧に制作していましたが、しかし単価が安いイコール相応の品物としか見ていただけない
お客様も相当数(実は殆どの方)いまして、見積りをさせていただいても高価と言われる
事が大変多くなりました。MDF材の汎用エンクロージャーは多数発売されていますから
それらとの比較で高価かと判断されるのかも知れませんが、
オーダーメードのキット製作へのご理解がだんだんとされなくなって来たのも悲しい現実でした。
HPを良くご覧になる方々へのキリ番カウンター踏み無料キット提供も辞退される方が
多くなって来てウッドウイルのキット制作の意味は無くなって来たのかもと思い初めていました。



多くのリピーターのお客様にキット制作を止めようと思うと相談しました。
お客様はキットから完成品までの品質をご存じですから、
理解出来ないお客の為に利益の上がらない仕事は止めた方が良い、
その時間でウッドウイルでしか出来ない作品に集中した方が良い、
その様な声を多くいただいたので今はキット制作を止めています。
これも敷居が高くなった一因かも知れません。



大変長い書き込みで恐縮ですが、まとめますと。
.安価なMDF材の汎用エンクロージャーは市販されている。
.オーダーメードではMDF材キットであっても相応の価格になる。
.お客様は他に頼む事の出来ない拘りの作品製作の依頼希望を持っている。
.制作側も高音質/高機能の作品製作はノウハウ蓄積や何より楽しい事。
.最近発表した標準エンクロージャーは他では市販されておらず、
 ウッドウイルのノウハウが凝縮されている。
.この標準エンクロージャーのノウハウを完全オーダーメード製作の作品に
 採用する事により大幅に納期/価格を改善する事が出来る様になって来ている。
.等々を総合的に考えますと他に有る物、他で出来る事をウッドウイルが
 行う事は意味は少ない。お客様に喜んでいただける事に特化して
 持てるノウハウ、マンパワーを発揮しようと言うのが現実である事。
.これらを総称して敷居が高いと言われるのは案外お褒めの言葉なのかとも思います。
 過去の作品の価値を認めて下さっているのでは。逆に敷居を低くして喜ぶお客様は
 殆どいないと思われ、その先には未来が見えて来ないと思うのです。



2008年12月12日金曜日

標準エンクロージャー発表しました

私がコントロールする事などまるで出来ないのではありますが、最近受注します作品は規模の大小に関わらずに高機能で高音質な作品が殆どを締めます。無垢材を乾燥させる為に1~2年も寝かせたり、正味の製作期間が半年以上必要な物など、制作側としては興味深くやりがいがあり大変に幸せな事でありますが、高価格で長納期が常態化しています。



反面、強い拘りは無いけれども市販システムや汎用エンクロージャーでは満足出来ない方も多くおられて、納期や価格で対応できないジレンマに陥ってしまい、長らく頭を悩ませていました。



グレードの差はあれ、高音質を目指して来たウッドウイルとしては安易な妥協は命取りにつながります。その考えがお客様に伝わるのでしょうか?現在はMDF材を使った作品は殆ど無くなりました。市販の汎用品は殆どMDFかもっと安価な合板などを使っていて、当工房が敢えて製作する必要性が薄れて来ているのかも知れません。多様な材料に構造、システム構成で音を聞いている私の耳にはMDFは最早ノイズに近い聞こえ方となって来ています。当工房の試聴室に来られるお客様方も、試作用エンクロージャーのMDFの音には感動を覚えない様です。



同じ大きさ、同じユニットでバーチ合板や無垢材、更にはラウンド構造の完成品を聞かれますとまるで違うシステムを聞く様に驚き、感動し、音楽に入り込めるのです。やはり素材選びは最重要な事の一つと思います。



大変前置きが長くなりましたが、上記の問題点の解決の一つの方法として100%バーチ合板を採用した直方体/ラウンドの2種類の標準型エンクロージャーを発表しました。高度な補強処理、完璧なピアノ塗装など従来の完全オーダーメードの作品と同等以上の高機能で低価格/短納期を実現させる事ができました。短納期と言っても受注製作ですので2~3ヶ月はお待ちいただきますが、最近では比較的簡単な作品でも半年や1年もお待ちいただく事が常態化していましたので大変な改善とご理解いただければ幸いです。



既に2年の間、製作のパートナーや協力者などを探して来た事。新たな仕入先の開発、加工方法の検討など時間はかかりましたが、標準品で間に合うお客様にとっては大変なメリットが有るだろうと想像します。特筆すべきはバーチ合板で曲面成型合板の製作に成功した事です。恐らく内外でバーチ合板の曲面成形合板製の製品は無いと思われ、ましてや注文製作で入手できるのは画期的な事と自画自賛しています(失礼)。この技術で完全オーダーメードのラウンドエンクロージャーのコストダウンと製作期間の短縮も大いに期待できます。



現在未だサンプル制作中ですので画像はもう少し後れますが、過去の制作例を見ていただければ当工房作品の品質はご理解いただける事と思います。初めての標準エンクロージャーですので不備もあるかも知れませんので、その時にはご指摘いただければ幸いに思います。



以上です。