2010年6月16日水曜日

音楽家の体の使い方

私は音楽そのものについては素人なのですが、訳あってプロの音楽家達の体の使い方を勉強している会に何度か参加した事があります。


以前から興味を持っていた古武道を通じて人の体の使い方を研究している甲野善紀氏の事は本や勉強会参加を通して知っていましたが、その方が講師となっていたのです。


仕事で大怪我をして体の使い方が以前と同じには出来ない、または時間がかかる事となりその対策を考えていました。その以前からの勉強会を通して知り合った方にプロのフルート奏者がいまして、その方が自身で改善した身体の変化を他の方にも紹介する内に音楽家の為の体使いの勉強会が立ち上がったと話していました。音大の若手からプロのソリストにオーケストラ員に扱う楽器は多様で、口コミで集まった方達です。


ピアノの音が良く出ない?と悩んでいた音大生にまず初めに少しだけ演奏させます。その直後に甲野氏は掌の平に丸棒を立たせて倒れない様にバランスを取ってみてと言います。数分間その学生は数十人の参加者が見守る中で子供の様に夢中になります。そして再び同じ曲を演奏すると、周りからどよめきが!。まるで音の響き違っているのです。


バイオリン奏者が肩が凝って演奏が辛いという状態で同じ様にまずは弾いてみます。腕を楽器の持つ位置に下から持ち上げる従来の方法に変えて腕を真上に先ず上げて、特別な意識を持って上から下ろして来ながら定位置に持って来ます。参加者が皆同じ様にしてみます。上半身や腕の力みが取れます。その状態で再び演奏を始めるとまたしても大きなどよめきが。本人が目をぱちぱちさせて信じられないようです。


その様な参加者の悩みを音楽とは無縁の甲野氏は体の使い方を瞬時に見抜いてアドバイスして行くのです。実は何故か音楽家で無い私もアドバイスを受けました。参加者はスピーカー制作者の私が怪我の回復にアドバイスをと言うケースを興味深く見守っています。


指の怪我でしたので大事な鉋を力強く握れません、そして曳く事が出来なかったのですが、甲野氏いわく、腕の先に鉋を握る道具も持った様に意識しろと、そして体全体でその道具を引っ張るのだと???、直ぐには理解できず何度も練習して関連する氏の書籍を読んでその技を習得できました。驚く事に今迄の1/3程の力で同じ作業が出来るのです。


そんな体験をしてからはコンサートに行きますと、演奏家の体使いを深く見てしまいます。つい最近聴いて来たバイオリンの庄司紗矢香さんは今世界注目の演奏家ですが、弓を引く力を入れている様にはどう見ても思えません。まるで弓の先が糸で吊るされている様です。大好きな五嶋みどりさんも先週聴いて来ましたが大熱演なのに同じ様に力んだ様子がまるでありません。


各国でピアノコンテストの審査員もされている程のピアノの中村紘子さんが本に書いてありますが、最近は演奏を聴かなくともピアノの前に座った様子を見ると技量が殆ど分かってしまうと言っています。これは音楽家だけでは無くてアスリートや私の様な物作りに関わる人間にも同じ様に言える事だなと思いました。


プロの音楽家になる為には幼少の頃から練習漬けで、体を使って遊んだりスポーツをする様な時間は皆無だそうですから人間本来の持つ運動能力をまるで知らない、体験せずに育つ、文明の利器を使う内に殆どの人がその様な感覚を忘れてしまうのでしょうね。天才と呼ばれる演奏家たちは音楽的センスは勿論ですが、体使いも本能的に備えている人達なのだと言っていました。


甲野氏は良く言っていますが戦国時代に生きた武芸者は常に命のやり取りをしていたから、私の様な研究だけしている者は足元にも及ばない程の体使いの熟達者だったろうと。それでもTVでも放映していましたが160cm50Kg程の甲野氏は柔道の重量級の選手をまるで子供の様にひょいひょいと転がしていましたけれどね。平和な現在に生まれていて良かったとつくづく思います。





2010年6月2日水曜日

チェロのエージング

この話は音楽なのかオーディオのジャンルなのか良く分かりませんが、


取り敢えずはオーディオ話と言う事で。




もう恒例になりましたが今年もN響次席チェリストの藤村俊介さんのソロコンサートを聴いて来ました。


今回は地元であるModel Aokiのオーナーさん(Aさん)もお誘いしてのコンサートでした。


いつもチェロを倒すとぶつかる距離の真正面で聴きますが、Aさんも分かっていたチェロの持つ表現力や豊かな音の響きですが、流石に目前で聞きますとそのスケールに圧倒されていたようです。


ウッドウイルの試聴室ではアコーステック楽器を聴く時には楽器本来の音量で鳴らしますが、殆どの方は環境が許さずに小さな音で聴いているので驚かれますが、Aさんはチェロがこんな大音量でなるのかとという点にも驚かれていたようです。1700年代にヴェニスで制作された名器と言う事ですので尚更かも知れません。


さてこれからがタイトルの話です。


この2年ほどのコンサートは雨天の為か演奏初めはさしもの名器も全体におとなしくしています。演奏曲目は前半が小曲が続き、後半のメインの曲の頃には楽器が目覚めて素晴らしい音色を聴かせてくれます。演奏家はそこまで考えて演奏曲目の構成を考えているのだな??と感心したものでした。


今年は晴れていましたのでどう鳴るのか興味深々です。演奏曲目は中間にメインの曲が入っています。出て来た最初の音はいきなり元気いっぱいで鳴り響きました。でも響き方が楽器全体からでは無くて不自然な気がしました。


やはり前半の演奏が終わった頃から全体が美しく鳴り響いて来ました。天候だけでは無く、やはり演奏して響かせて目覚める物のようですね。目覚め方の違いは有るようですが。


昨年夏に工房や試聴室にも来ていただき、お近づきになれたのをいい事に恐れ多くもそんな私の感想をぶつけてみました。そうしましたらエージングの過程は指摘したその通りの変化が有ったと話して下さいました。中間のメインの曲の頃には馴染んでいましたよとの事。但し今年の乾燥した状態からのエージングの過程は楽器そのものと、ホールの床とが馴染む協調性も含まれていたとの事でした。


楽器と床とが馴染む???うーむ考えた事が無かった。床材やその構造や根太の上か、外れているかはピアノでは大きな問題で承知していましたが、馴染むとはどう言う事だろう。勉強しなくては、スピーカーにも共通する事が有る様な気がします。


来年は演奏開始直前まで練習して汗が引かない内にやってみましょうとのお返事をいただき、今からとても楽しみにしています。