今年もN響次席チェリストの藤村さんの演奏を聴きました。
前回お会いした時に楽器自身のウオーミングアップに加えて演奏会場の床との
協調も重要だと言われていました。
チェロはエンドピンというピン状の先を床に刺しシャフトで繋ぎ楽器を支える構造ですので
床に振動が直接伝わる事は理解していました。
今年も例の如く正面(チェロが倒れると届く程の距離)で靴を脱いで裸足で聞いてみました。
驚く事に足裏には想像以上の振動が伝わります。
楽器の音に加えて床の振動音も聞いていたのだと明確に理解出来ました。
弓で擦った弦その物の音と駒で弦の水平振動を垂直振動に変換して表板を振動させ、
胴体内部の共鳴を誘い胴全体を振動させ、更に魂柱で裏板に直接振動を伝えて協調する。
そんな楽器全体の振動(響き)と床振動をも加えた音を我々は聞いている訳です。
壁や天井の振動も反射音も加わっている事は勿論です。
比べてスピーカーなのですが、当工房の無垢材スピーカーは積極的にエンクロージャーを
共振させて良好な響きの音色を引き出していますが楽器には遠く及びません。
エンクロージャーは振動してはならない、再生音はユニットからの振動板の音だけで
有るべき!と言う考え方が主流なのは承知していますが納得出来無い領域もあります。
チェロの振動量は微々たる物ですが振動面積が大変広いのに対して、
ユニット振動板はかなり狭く、それを補う為に振動量(ストローク)でカバーしています。
中域や高域の再生には広い振動板面積は原理的には不要ですが、
では何故ヴァイオリンなどはあの様に大きいのでしょう?
今回聞いていて思ったのは振動板のストロークは小さくて良いから良く響く
広い面積のユニット振動板とそれを納めるやはり心地良く響くエンクロージャーが
必要では無いのかと言う事です。
最近、広面積平面振動板スピーカーを聞き、その音質改善を検討する機会がありました。
アイディアは良いのですがそれを具体化する加工技術が拙く問題大でした。
つき板張り仕上げのエンクロージャーを製作する時には、本体が完成してからつき板を
張るのですが、ユニットの開口部を塞ぐ様に張り、アイロンで熱しますのでつき板は
障子紙の様にピーンと強く張っています。薄さは0.2~0.3mmです。
開口部穴の面積を持った振動板と言う事が出来ます。太鼓の皮とも言えるでしょう。
そのつき板をはじいた時の張りがあって反応の良い軽々とした音に何時も惚れ惚れします。
ユニットを取り付ける為にそのつき板をくり抜くのがもったいない様な気になります。
チェリーやメープル、ウオールナットにオーク、樺などの響きは素敵です。
薄板無垢材の素材のままの響きです。
その振動板を取り出してユニットの駆動回路と連結する構想で考えますと
エンクロージャー前面とほぼ同面積で響かせる事が出来る筈です。
エンクロージャー素材も構造もその響きを妨げ無いどころかより積極的に響かせる、
それこそが電気音響技術の可能性の秘めた所です。
未だ見ぬ(未だ聞かぬ)その世界を創造しつつ実現出来たらすばらしいだろうと
思いにふける今日この頃です。